飯米衛 記憶のグルメ

旨いものを求めて、ふらりふらりと

魅惑のハモン

私は世界各国の料理が好きだ。その土地の(「○○風」などのインスパイア系も含む)味を通して、行ったことがなくてもその国や地域の文化を追体験したり、ちょっと旅行した気分になることができる。

 

初めて行った海外は学生時代の休みに一人旅で行ったスペイン。多少スペイン語の単語は覚えたつもりでも実際に行くとやっぱり違う(あたりまえか)。レストランでメニュー見せられても初めて見る単語だらけで、くじ引きのような気分で注文していたような気がする。

 

幸い自分が訪れた多くのバルではカウンターの上やガラスケースの中に料理や食材が置かれていた(日本の居酒屋でもしばしばそういう光景があって、その店の「推し」を知ることができる)。また幸運なことに旨いタパス(小皿料理)にも出会い、一口食べて感動、それまでの孤独からいきなり「スペインへようこそ!」と盛大に迎えられたような感覚になった。

 

大げさだけど、今思えば「ご当地グルメ」の偉大さを初めて知った瞬間かもしれない。当時はまだ学生で日本国内あちこち行っていたわけではないし、地元の郷土料理の意識もあまり持っていなかったので、この体験は本当に大きかったと思う。

 

それ以来すっかりスペイン料理が好きになって、東京や今住んでいる近所のスペインバルにもよく行ったし、家でも時々スペインオムレツやアヒージョを作ったりしている。

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自家製スペインオムレツ Tortilla Española (casera) 

 

ところでスペイン料理の特徴はざっくり4つ

 

・素材をしっかり生かす

・オリーブオイルやにんにくを惜しまない

・ピメントンを使う

・ハモンがある

 

最初の2点はイタリアなどオリーブオイルを使う国の料理全般にいえることだが、大きいのは3つ目の「ピメントン」という存在。スモークしたパプリカのパウダーで、チョリソーなどの色の元になっていて、魚介料理の仕上げなどにも使われており独特の風味がある。この香りはちょっと好みが分かれると思うが、これがあると一気にスペインの味になる。

 

そして4番目の「ハモン」。今は日本のほぼ全域にスペインバル(本格派からインスパイア系まで含む)があるが、そんな中、お店選びの際に個人的にもっとも重要視しているのが「おいしいハモンがあるかどうか」というもの。

 

ハモンとは、スペインの生ハムのこと。大きく分けて「ハモン・セラーノ」「ハモン・イベリコ」の2種類があって、そもそも豚の種類が異なる。「ハモン・セラーノ」は改良種の白豚、「ハモン・イベリコ」はご存知イベリコ豚の生ハムである。

 

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 ハモン・セラーノグラナダのマリスカル)

 

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ハモン・イベリコ・デ・ベジョータ(ハブーゴのシンコホタス)

 

写真は5年ほど前に久しぶりに行ったスペインでのもの。上の写真のハモン・セラーノは柔らかな口当たりでそのまま食べるのはもちろん、料理のアクセントとしても最適。グラナダハモン・セラーノの一大産地(トレベレスなどが有名)で、ハモンメーカー「マリスカル」直営のバルでの絶品ハモン・セラーノ

 

といいつつハモン・イベリコも食べたくなり、セビージャ(セビリア)にあったハモンメーカー直営?のバルでの写真(下)。セビージャからほど近いウエルバのハブーゴ村の生ハムといえば超有名ブランドで、その代表格の1つ「シンコホタス」はやっぱり最高だった。

 

スペインの市場やスーパーでは原木(脚一本)がそのままぶら下がっていて、見分け方はシンプル、蹄(ひづめ)の色が黒ければ黒豚であるイベリコ、それ以外はセラーノとなる。イタリアのプロシュットなどは蹄を見せる必要がないので(自分の知る範囲では)カットされていることが多い。

 

ちなみにハモンは後脚から作られていて、前脚はやや小ぶりで「パレタ」と呼ばれている。スペインではかなり小さなバルでもハモンが原木まるごとスタンドに置かれていて、日本で例えるなら町の小さな寿司屋のカウンターに解体ショー直後のマグロが置いてあるくらいの存在感である(※筆者のイメージです)。

 

またハモン=高級なイメージもあるが、実は値段もさまざまで、スーパーに普通にベーコンブロックみたいな形で「Jamon curado ハモン・クラード(ハモン・セラーノより手に入れやすい価格帯)」というタイプも売られていて、普通に料理の食材として使われている。部位は異なるがそれこそベーコンだったり、イタリア料理で使うパンチェッタ的な存在かもしれない。

 

スペインから戻ってすぐネットで「ハモン」を調べようとしたとき、フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』に、ハモン・セラーノについての記述があったが、「プロシュット・ディ・パルマ金華豚と並んで世界三大ハムのひとつ)」と書かれているくらいで、「イベリコ」についての記述は存在していなかった。なのでつい、「ハモン・イベリコ」の項目を作ってしまった。唯一自分でWikipediaに書き込んだのがハモンについて。その後いつの間にかいろいろな人が加筆したり写真を掲載されていてすっかり充実したページになった。(写真などちょっと違う部分はあるけど他の人の編集についてはノーコメント)

 

ja.wikipedia.org

 

ja.wikipedia.org

 

20年ほど前、デパ地下のスペインフェアで真空パックの薄切りハモンを見つけて喜んでいたら店員のお姉さんが「ようやく入るようになったんですよ~」と言っていたのを覚えているが、今やネットでハモン・セラーノやハモン・イベリコを原木まるごとポチっと買える時代になってしまった。実はスペインで一時期住んでいた頃に一度まるごとハモン・イベリコ・デ・ベジョータを(今の日本の相場の2~3割くらいの価格で)買ってしまったことがあるが、さすがに食べきれなかったのでご利用は計画的に。今でも年に数回、ウニ、カニ、うなぎを食べたくなるくらいの周期で「ハモン」の誘惑がやってくる。そろそろ食べたくなったので今回はここまで。

 

追伸:

1年以上前に書いておいて「ラーメンの後にしよう」と思っていたらすっかり載せそびれてしまった記事が出てきたのでちょっと加筆して掲載しました。